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今日は、朝から土砂降りだった。
駅へ向かう道には、色とりどりの傘の花が咲いていた。
人混みの中、見覚えのある傘を見付けて、思わず足を止めた。
別れた彼女だ。
あの時子供だった俺には、別れるしか方法が分からなかった。
だから、今でも好きだった。
次第に、彼女の傘が近付いてくる。
『今でも好き』
そんな格好の良いこと言えなくても良かった。
ただ、声が聞きたかった。
でも、俺は、何も言わずに彼女とすれ違った。
“さよなら”
その言葉が俺を金縛りにした。
傘の向こうで何か落ちる音がした。
…泣いていた。
彼女も俺も。
…でも、今なら、泣いても良いと思った。
この雨と傘が、俺の苦しみも涙も隠してくれると思うから。
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