壊れ始めたもの

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上履きの侭適当に走り、何処をどう通ったのかも解らなかった。唯、必死に『何か』から逃れようとして居た。 商店街を抜け、河原を抜け、東京の割に随分と静かな場所に出た。天都には此処が何処か解らなかったが、そんな事はどうでも良かった。 「風流!風流、何処なの?何処に居るの!?」 天都は人目も気にせずに叫んだ。実際、人通りは殆ど無いのだが。 【天都?何だよ、煩ぇなぁ】 風流は何時もの様に、寝癖も直さずに頭の中から天都に話し掛けた。 「停学ってどういう事なの?何があったの!?」 今にも泣きそうな顔をして、鞄を胸の位置で強く抱き締める天都。 【…お前、覚えてねーの?】 一瞬、二人の動きが止まった。 「…………風流は、覚えてるの……?」 朝の風が、天都の前髪を揺らす。遠くでは鳥の鳴き声が聞こえて居た。 【…まぁ…、…一応な】 「……どうして?」 音も無く、天都の瞳から雫が頬を伝った。 「どうして……僕は覚えて無いの?大事な事なんだよ…?重要なんだよ…?」 はらはらと流れる涙に、風流は困惑する。 【な、泣くなよ…天】 「どうして!?」 突然天都が声を荒げた。さっき迄の悲しげな表情ではなく、今度は風流に対して迄も怒りを向けて居た。 「どうして僕の体なのに、僕には記憶がないの?僕の体なんでしょ!?僕なんだよ!?何で僕が僕の記憶ないの!!」 一気にまくし立てると、天都はその場に泣き崩れてしまった。 【……天都…】 風流は悔やんだ。己の肉体が無い事を。 体が在れば、天都を抱き締めてやれるのに。 体が在れば、天都を護ってやれるのに。 体が在れば。体さえ在れば…。 【……ごめん、天都…】 風流には、それしか言う事が出来なかった…。
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