19人が本棚に入れています
本棚に追加
風祭天都(カザマツリ アマト)。
彼女は普通の…否、普通に見える女子高生だ。
彼女が普通でない理由は、彼女が多重人格障害だという事。診断はされて居なかった。唯、毎日当たり前のように記憶が抜けた。
天都は学校にあまり行かなかった。学校に行けば苛められるし、誰も天都の事を気にしなかった。上辺だけの友達は居る。然し、誰も本当の天都を見ない。
【天都…良いのかよ?】
学校の昼休み、弁当を食べながら天都が上辺だけの友達と話して居ると、声が聞こえた。
【風流(フウル)…】
天都の中には、10人の人格が居た。風流はその中でも、一番天都に近い存在だ。性格もそうだが、一番天都の事を考えて居るようだった。
【今日もまた、教科書隠されたろ?犯人解ってんじゃん。オレがぶっ飛ばしてやろうか?】
【止めてよ…そんな事しないで】
【でもよ…】
「天都?」
急に動かなくなった天都に、クラスメートの由美が話し掛けた。
心の中で会話して居た天都は、びっくりして持っていた箸を落とす。
「な、何?」
「まーた動かなくなってた。アンタ、食べながら夢見てんじゃないのぉ?」
由美と、他の二人が声を上げて笑った。天都には苦笑する事しか出来ない。
落とした箸を拾い上げようとすると、由美がそれを踏んだ。
「あっ、ごめん天都ぉ。あたし、足長いからぁ」
由美が残りの二人の笑いを求め、楽しそうに笑った。
天都は黙って箸を拾い、洗い場に行く。
【…教科書、隠したのゼッテーアイツらだ。お前、なんであんなのとツルんでんだよ?】
【…入学した時、由美達が初めて話し掛けてくれたから…】
洗い場の窓から、初夏の香りの風が吹いた。天都の長い髪を棚引かせる。
洗い場の水はまだ、冷たい。
最初のコメントを投稿しよう!