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箸を洗い終えて席に戻ると、由美達が楽しそうに噂話をしていた。天都は静かに席に戻り、自分で作った弁当を黙々と口に運ぶ。
由美達は誰々が好きだの、誰々が嫌いだの、下らない話をしている。天都は由美達の「嫌いな人」にならないよう、嫌々ながらも話を聴く。そうする事で少しでも彼女達の「仲間」になれた気がするし、孤独感を感じなくて済む気がする。尤も、風流達が居る時点で独りではないのだが。
由美達の話を聞きながら、時々天都は空想する。
もし、彼女達がもう少し自分達に対して優しくしてくれたら。
この、地獄のような生活も変わるのだろうか。
考えてから、天都は馬鹿な考えだったと空笑する。
「やぁだ、天都ったらまーた一人で笑ってる。気持ち悪ーい」
由美がケラケラと楽しそうに笑う。何が可笑しいのか。頭の中の部屋で風流が暴れそうになったが、同じく人格であるミズキがそれを止める。
「あ…ちょっと、思い出しちゃって」
天都は慌てて取り繕う。はにかんだ笑い方が、少しぎこちない。
「天都でも面白い事あるの?」
「うん…。…あ、昨日のテレビ」
「ふぅん」
由美は興味なさそうに天都の話を打ち切り、自分の友達との会話に花を咲かせる。
弁当を食べ終えた天都はそれを片付け、また由美達の話を聴く。時折風流が話し掛けて来る。
【あの女…マジでムカつく。ゼッテーアイツらが悪いんだ。…天都、ちょっと代われよ】
【駄目だよ…。由美達は大事な『友達』なんだ】
【あれが『友達』?お前を傷付けてばっかじゃねえか】
【そんな事ないよ。一緒にご飯を食べてくれるし…。昔は誰も一緒に食べてくれなかった】
天都は今迄の人生で、虐められなかった事がない。学校でも家庭でも、天都に居場所はなかった。独りで食べるコンビニの弁当は味気なかったし、独りで観るテレビも面白くなかった。
【だから…僕は今、『幸せ』なんだよ】
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