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【『幸せ』ねぇ…】
風流はそう言って由美達を見る。由美達の中には、まるで天都が存在しないかのようだった。
─これは、『孤独』。
大勢の中の、孤独だ。
確かに天都には、上辺だけの友達は居る。然し、ソイツらは天都を傷付けるだけで助けようとしない。こんなのは、『友達』なんかじゃない─
突然天都の体が椅子から転げ落ちた。前のめりに倒れたが、受け身を取ったのでさほど痛くはない。が、何故か背中が痛かった。天都は慌てて後ろを振り返る。
「よ、風祭。何楽しそうにしてんだよ?俺も楽しませろよ」
そう言ったのはクラスメートの葉山靖虎(ハヤマ ヤストラ)。葉山は何時も天都を殴って居た。天都は恐怖に震え、一瞬で意識を手放す。
次に天都の体を支配したのは、風流だった。
「テメェ葉山…もう許さねえ」
風流は低い声で呟く。それは、由美達への怒りも込めて居た。
女子供は殴らない─。それは、天都の親を見て学んだ風流の信念。
だから、これは八つ当たりだ。
風流は己の身勝手さに、また怒りを募らせた。
突然態度の変わった『天都』に、葉山は驚きもしなかった。
「何だよ?俺に楯突くつもりか?良いぜ、やれるもんならやってみ─」
風流を嘲笑しようとした葉山の顔面に、風流の拳が入った。途端図体のデカい葉山の体が教室の机を押しのけて床に倒れ込む。
風流は葉山の上に馬乗りになり、一発二発三発─数え切れないくらいに葉山を殴った。
それを見た男子が後ろから風流に殴り掛かる。風流は体を翻し葉山の横に立つ。男子生徒の拳は葉山に入った。葉山はもう伸びて居る。
「テメェ、生意気なんだよ!」
他の男子も加わり、そこは乱闘と化した。相手は6人。風流は頭に血が上って居たが、冷静に男子達を分析した。筋肉の動き、目線、体重移動─相手の次の行動は、風流には予測出来た。だから、相手の殴りかかる腕を振り払い、鳩尾に一発、振り返って別の生徒の顎に一発。風流は喧嘩慣れして居た。
気付くと既に全員伸されて居て、天都は女子生徒が呼んだ先生数人に取り押さえられて居た。
「風祭!お前なんて事をしたんだ!」
担任の怒号が響く。
「違う…違います!僕じゃありません!」
天都にはこの数分の記憶がない。だから、余計に訳が解らなかった。
「皆がお前がした事を見てるんだ!お前は停学だ!」
茫然自失の天都の前で、別の先生達が葉山達を運んで行った。
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