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先生に呼び出され、正式に停学を告げられた後天都は自宅に帰らされた。
自宅になんて、帰りたくなかった。帰れば今日の事が親に知られる。知られればまた殴られる。それが兎に角怖くて、嫌だった。
【悪ぃ、天都…。つい、カッとなっちまって】
【風流が謝る事じゃないよ…】
そういう天都の顔は曇って居る。明らかに不安を感じて居た。
【悪い…。ホント、悪い…】
風流は何度も謝る。
天都は中を振り返り、笑った。
【大丈夫、君の所為じゃない】
不安げに笑う天都。風流を慰めようとする顔だ。
【…ごめん】
それきり風流は何も言えなくなってしまった。天都が、優し過ぎるから…。
【それにさ、これで暫く学校行かなくて良いし。停学じゃ、ズル休みしなくて良いじゃん】
今度は前を向いて天都が笑う。道端の小さなコンクリートの塊を蹴飛ばしながら。
【天都…】
その時、天都の携帯が鳴った。着信メロディーは『ボレロ』。固定メール着信だ。
天都はその音を聞いて一気に表情が明るくなった。風流も安心して和やかに笑う。
メールの相手は、天都が学校に行けない日によく遊びに行くのサイトの住人、ペーシュだ。随分前から、天都とペーシュはメールを交換して居る。何故ならばペーシュも多重人格だからだ。
今日は、ペーシュ達とのオフ会の話だった。
ペーシュ達は、埼玉に住んで居る。そして、天都達は東京。逢うとしたら、東京だ。
【風流、ペーシュ達がこっち来てくれるって】
天都は嬉しそうに風流に話し掛ける。
【そうだな。やっと逢えるぜ】
風流も嬉しくなって、一緒に笑う。
今は、ペーシュ達に逢うのが生きる為の目標。天都はペーシュ達に逢う為だけに生きて居る。リスカをしても、自ら首を絞めても、天都は生きる。ペーシュ達に、逢う為だけに。何故なら、ペーシュ達は天都達を受け入れてくれたから。生きて良い、そこに居る、と。生きてくれて有り難うと、言ってくれたから。
だから、この地獄のような毎日も生き抜ける。
ペーシュ達が、居てくれるから。
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