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家に帰ると、まだ両親は帰って居なかった。天都は安心して通学鞄を置き、着替え始める。その体には無数の痣。クラスメートや両親に付けられたもの…。天都は時折痛みに顔を歪めながら、普段着に着替える。
突然、天都の部屋のドアが開いた。
中学生の弟だ。
「…姉ちゃん」
天都は恐怖に身を固める。着替えの途中だが、それを咎められない。
「姉ちゃん」
天都の弟…マモルが天都をベッドに押し倒し、覆い被さった。
「や…」
天都は恐ろしさと嫌悪で声が出ない。意識を飛ばし、沙屶(サナタ)が天都の身体を支配した。
沙屶は恐怖で動けない。
マモルは沙屶に触れて行く。
(我慢すれば…沙屶が我慢すれば、すぐに全部終わる。大丈夫、大丈夫…)
沙屶は泣きながら目を瞑り、全てが終わるのを待った。
全てが終わりマモルが出て行くと、沙屶はひたすら泣いた。シーツにしがみつき、声が洩れる事も気にせずに。
「どうして沙屶なのぉ…っ?どうして変な事するのぉ…っ?痛いよ、気持ち悪いよぉ…っ!」
沙屶は5歳。全てを受け入れるには、まだ幼過ぎた。
その時。
ポップアップが、起きた。
「あの男…私が必ず殺してやる!!」
ポップアップとは、人格が我先に肉体に出ようとし、次々に人格が入れ替わる現象だ。逆に、誰も出たくない時にも起こる。特徴としては、人格全員が不安定だという事だ。
沙屶の次に出て来たのは真澄(マスミ)。真澄は成人女性。汚される事に猛烈に怒りと憎しみを感じる。
「落ち着くんだ、真澄。殺してはいけない」
次に現れたのはミズキ。ミズキは冷静で人を愛する男。今の状況を落ち着ける為に出た。
「ふざけるな!!あんなに汚れた男が居る事が許せない!天都と奴は姉弟なんだぞ!!」
再び真澄が現れる。憎しみに目がつり上がって居た。
「何で痛い事するのぉ…っ?沙屶、あの人怖いよぉ…っ」
沙屶が現れわんわん泣く。
20分も人格が入れ替わり立ち替わり、現れては戻って行った。
ポップアップが治まると、天都は呆然とした侭ベッドに座って居た。
何故、自分は裸なのか。着替えをして居た筈では?
天都にはポップアップ中の記憶がない。何故なら天都がコンタクトの取れる人格は、風流のみだったからだ。
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