19人が本棚に入れています
本棚に追加
「帰ってるの?」
突然天都の部屋のドアが開いた。暗がりに廊下の灯りが差し込み、天都は目が眩む。
「……醜い格好。さっさと降りなさい」
ドアを開けたのは天都の母親だった。天都の母親は天都の乱れた髪や服装を見て、まるでゴキブリを見る様に顔をしかめた。
「お母さ…」
天都が母親を呼び手を差し伸べ様とした姿を横目に、天都の母親はドアを閉めた。天都の部屋を再び静寂と暗闇が襲う。
【天都…】
風流が天都に話し掛けた。
「………一人にして」
そう言った天都の表情は、最早表情とは呼べなかった。何の感情もない瞳。天都の眼に光は灯って居なかった。
風流は仕方なく頭の中の自室に戻った。とても申し訳なさそうに。悔しさに顔が歪む。
「…………………」
天都は殆ど剥ぎ取られた下着と制服を脱いだ。裸になり、机の上のカッターを握る。カチカチと音を立て刃を出せば、それは至極魅惑的なものに思えた。恍惚とした表情でカッターを眺める。
ゆったりとカッターを握る右手を動かし、全身の肌を滑らせる。血塗れになった天都の体。ポタポタと雫がカーペットを汚す。
不意に暗闇に天都の姿が浮かんだ。目の前の鏡だ。
(──醜いな)
そっと歩み寄り、鏡に手を添える。
(この血と一緒に、汚れも流れたら良いのに)
天都は自分の頭の中で浮かんだ言葉に、首を傾げた。
(『汚れ』…?)
突然ギシ、とベッドが軋んだ。
【貴女は醜いよね。弟に汚されてるんだからさ】
天都は目を見開き、視線だけをベッドに向ける。そこには、ショートカットだが前髪の長い少女が居た。
【本当に醜いね。小さな子供に自分の身代わりをさせるんだから】
少女が真っ赤な口を大きく開けて笑う。
「………だ、れ……?」
【私?……私は、貴女。良く見て。私は貴女の『罪』よ】
一瞬天都の脳内に色々な記憶が巡った。殴られる感覚、詰られる感覚、犯される感覚、ありとあらゆる『嫌悪』の感覚─。
「いや゛ぁぁあ゛ぁああぁあ゛あ゛っっっ!!!」
絶叫が暗い部屋に響いた。天都は自分の頭を抱え、目を見開いた侭叫ぶ。それを見た少女は満足そうに笑うと、暗闇の中に消えて行った。
最初のコメントを投稿しよう!