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──雨が、シトシト降る6月の昼。
閑静な住宅街を、一台の黒い車が走っていた。
ここは平坦な狭い道である。スピードが出る事もない。
『キキ──ッッ!!』
だが、スリップ音が静寂を切り裂く。
急ブレーキをかけた車は、この街に似つかわしくない音を立てて止まった。
「だ、大丈夫ですか!?」
バタンと開かれたドアから、運転手が慌てて降りて来る。
20代後半の、細身のスーツを着た長身の男。
はた目にも上質だと分かるジャケットが、細かい雨に濡れているが、気にする素振りは見せない。
「チッ……失敗した」
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