382人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
車の前から呟く声がし、とりあえず生きていることが分かった運転手はホッと息をついた。
パシャリと水音を立てながら近づく。
倒れて尻餅をついたのか、座り込んでいるその声の主は、ジーパンにパーカー姿で、目深にフードを被っていた。
「せっかくタイミング見て飛び出したのに、受け身とっちまったぁッッ」
フードは立ち上がると、両手で頭を抱えて、そう叫ぶ。
運転手は驚いて、目を見開いた。
「なっ……何、アクロバティックな事してるんですか!? ケガはないですか?」
「ない! 残念ながら、かすり傷ひとつもなぁい!!」
なぜか、悔しそうに車のボンネットを叩いて顔を歪めるフードに、愕然とする。
「ちょっ……何のスタントですか!?…………それより、あなた──」
ボコンと凹みそうなボンネットを見て、運転手は慌てて手を押さえ込むと、ふとフードを見上げた。
「…………いろいろ訳ありみたいですね。ケガしてないなら家に来ますか? 服も泥だらけですし」
しばらくフードを見つめ、考え込んでいたが、そう言いニコリと微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!