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運転手は、後ろのドアを丁寧に開ける。
その慣れた仕草は、雨に濡れてしっとりとより優雅に見えた。
「…………」
フードは躊躇して立ち止まっていたが、意を決したようにサッと後部座席に滑り込むと、座り心地のいいシートに身をゆだねた。
「ところで、私は長谷川と申します。あなたは?」
長谷川は、運転席に乗り込み、濡れて乱れた艶のある黒髪を手で整えた後、ハンドルを握る。
車はスーッと音もなく、緩やかに走り始めた。
「……マコト」
マコトは長谷川を見ずに、雨に濡れたこの街をガラス越しに眺め、ボソッと名乗る。
今までの騒ぎが嘘のように、また静けさが戻っていた。
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