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深夜。
月が煌々と輝く、満月の夜。
街は静かに眠り、昼間は賑わうオフィス街も、今は音のない世界。
そのオフィス街にある、ビルの屋上。
そこで、僕は1人の女性と対峙していた。
屋上のフェンスの上に器用に立つ女性。
肩までの亜麻色の髪を揺らし、鍔のついた黒い帽子をかぶっている。
帽子で目元は見づらいが、大きな二重の瞳に整った顔立ち。
少し幼いその顔立ちとは反して、肩と背中を露出させた黒服に白のミニスカートと、格好は色っぽい。
対して、そこから距離を取る様に立つのは自分。
男性にしては長めの、肩にかかるかかからないかくらいの黒髪に、一重の瞳、ふちなし眼鏡。
カチっとしたグレーのスーツはお気に入りだけれど、どうも堅苦しく見えると不評だ。
目の前の女性はしばらくの間無表情のまま、僕の様子を伺っていたけれど、柔らかく微笑んでその整った唇をほどいた。
「今回も、私の勝ちね」
その声はよく響く、美しい声音。
耳に残るのに、心地のいい楽器のような、音。
「また会いましょう、探偵さん」
そう言って、彼女は宙にふわりと浮いた。
逃げられる。
そう思った瞬間にフェンスに駆け出したけれど、彼女の姿は既にそこにはなかった。
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