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唇からは、言葉がすぐに出たがすぐは一瞬のこと。
後は妙な、叫びが小さく聞こえた。
「静かにしろっての!?」
小声で、少女に言った。
そして掌(てのひら)で、少女の唇を塞いだ。
普通の声での会話をしては、この全てが無意味になってしまうから。
(早く行ってくれよ……)
冷や汗が額から吹き出して、神経の全てを集中する。
廊下には、ブーツの底と床が擦れて発せられる足音。
ゆっくりと、こちらへと近づいてくる。確実に。
一方の少女は、協力的ではない。
このままでは、見つかるのは時間の問題。
「少しはじっとしてろ!」
小言で小動物のように動き回る少女をいさめた。
「ねぇー。いつまで、ここにいるの?」
少女は細い鎖を指先で弄って、声色は飽きていた。
「俺に言うな。アイツに言え」
水滴が残る、前髪を掻きあげてうんざいした様子で答えた。
「てゆうか、なんでこんなところにいるんだろう?」
湿気が残る髪の毛をタオルで拭きながら、少女は何気無く口にした。
「知らんよ。そんなの……」
足音と気配に注意の意図を張り巡らせて、答えた。
「本当に知らないの?あの子がここまで来る理由」
明らかに、楽しむと興味津津の声。
「しつこい。知らんもんは知らん」
眉間の皺が深くなり、視線を隣に向けた。
「なんで、あんたがここにいるんだよ」
青年がっくりと、首がうなだれた。
「ま、失礼ちゃう言い方たね。助けてあげちゃお♪って師が来て――」
ふふっと微笑みを浮かべる妙齢の女性が青年と少女の間にちょこんと座っていた。
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