序章 孤児院最後の日

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「来るな!」  倉庫のドアを閉じた瞬間に聞こえたあの声は誰のものだろうか……いや、アベルのものだ。そのことを認識した瞬間に無数の銃声が響き渡る。その直後に聞こえた、コップの水をぶちまけたような音と、重いものが崩れ落ちる音。  俺にとって孤児院で最年少のアベルは弟のような存在だった。だが、今の音からするともう二度とその声を聞くことはあるまい。  そんな感慨が一瞬胸をよぎるが、それに身を任せる余裕などない。  俺は入り口近くにあった、灯りのスイッチをいれて今の状況を確認する。  場所は教室より少しだけ広く、天井の高い薄暗い倉庫で、保存をよくするためか窓はない。  倉庫の中はいっぱいとは言わないまでも、予備のものから用途不明のものまで雑多に転がっている。  ルーファスは俺の横でコネットを守るように立っている。その拳は大きく震えていた。それは怒りなのか怯えなのか、俺には分からない。しかし、その心の中は台風のように荒れていることは想像に難くない。  仕方がない。俺もルーファスも、そして当然ながらコネットも、血なまぐさい場所とは縁がなかった。この町は決して治安のいいところとは言えなかったが、孤児院に居る間は安全だったし、多少の相手なら有刺鉄線やじいやが守ってくれていた。
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