13人が本棚に入れています
本棚に追加
そもそも治安が悪いと言ってもそれはせいぜいナイフや鉄パイプで武装した強盗が出る程度のこと。銃器で身を固めた、いかにも玄人とわかるような集団が襲撃してくることなど想定しているはずもない。だから、孤児院の子供達は本当の危険について知っている必要などなかった。
ただし、仮に知っていたとしても、今の状況が打開できるとは思わない。
細かく状況を分析するなら相手の行動はとても粗が多いように見える。アベルを撃つのにあれほど大量の弾丸が必要とは思えないし、部屋の探し方も効率的とは言えない。付け入る隙は一見あるようにも見える。
だが、俺はそれが幻想であることも気付いていた。
相手が今日ここに踏みこんできた理由。それを考えると明白だからだ。
すなわち、じいやの不在。
この孤児院はじいやが運営していて、じいやが守っていた。
老いたとはいえ、有名な怪盗だったらしいじいやは生半可な相手では束になってもかなわないという噂だ。そのじいやが、領主の呼び出しで留守にしていた。なんでも孤児院の補助金に関する重要な話らしく、代役を立てることも難しい状況だったと言う。
じいやが自分の代わりにと置いて行った五人もの護衛は一瞬にして蜂の巣にされた。その辺りの周到さは相手が素人ではないことを窺わせる。
最初のコメントを投稿しよう!