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生温かいものが顔にかかり、それを手で拭う。
手にはべったりと血がついていた。
「似合うぜ、テメーに血は」
「・・・高、杉・・・」
土方の目は攘夷浪士の高杉晋助を映している。
目の前の男に勝てないだろうことを悟った。
ああ、俺ァここで死ぬのか。
それならそれでもいいかと思う。
近藤さん、ごめんな。
これでも少しは役に立てたんじゃないだろうか。高杉は殺せなかったけれど、他は全員殺した。真選組の敵はこの男以外は殺したから、後はもうどうにかなるはずだ。
この男には勝てないだろうけれど、でも、もう近藤や真選組に手が及ぶことはないだろう。
それならいい。
もう、いい。
「逃げねェのかよ」
「俺が?誰が逃げるか」
この男からは逃げられそうにない。逃げたって無駄だ。
ああ、頭がクラクラしてきやがった。
血が足りない。
そういえば、と今更気づく。
さっき俺の目の前の男を斬ったのは高杉だ。
何で?
仲間じゃねェのか?
「どうしたよ」
「別に、何でもねェよ」
聞いたって仕方ねェな。
俺はどっちにしたって殺されるんだから。
目の前の隻眼の男に斬られておしまいだ。
近藤さん、やっぱりアンタより先に俺は逝くよ。
アンタ怒ったけど、俺はアンタより後に逝く気はなかったし、どうせ死ぬならアンタのために死にたかったから、予定通りって言やァこれは予定通りだ。
だからいい。
ふっと穏やかに笑む土方に高杉が気づき、ピクリと眉を動かす。
「テメー、何うれしそうな顔してやがんだ」
「さァ、何でだろうなァ?」
楽しげに笑みを浮かべていた高杉の顔から笑みが消える。
終わりだな。
プツン、と土方の意識は途切れた。
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