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「秘書?」
静雄は眉を寄せた。
「あいつ、そんなのいたのか」
そんな話、聞いたことがない。まあまともに会話をしたことがない相手だから当然だが。
「それじゃああいつをその秘書に任せりゃよかったじゃねえか」
「それがね、『私、今日非番なの』って断られた」
苦笑している新羅の顔が思い浮かぶ。
「だけど今は非常事態だからね、さすがに雇い主がいなくなったら困るだろうし。それじゃ、後よろしくね、静雄」
静雄が通話を切った所で、門田はちらりと腕時計に目を落として言った。
「じゃあ俺はそろそろ仕事に行くわ」
「おう」
「犯人はあいつに恨みを持ったやつかもな。どうやら計画的な犯行みたいだったしな」
と門田は、自然な口調で言った。
「まあ絞りきれないだろうがな」
さらりと付け加え、そのまま通りを歩き出した。同窓生が命の危険に晒されても淡々としてる辺り、さすがに非日常に馴れている。門田の姿が人混みに消えたところで、馬の嘶きに似たエンジン音が、聞こえてきた。
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