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近藤と盃を交わした後、牡丹は一つの約束を残して屋根瓦に寝転がっていた。
冷たい風が、昼間の冷視線を彷彿させる。
空は、きっと明日も晴れるだろう満天の星が煌めくのに、一人で仰ぎ見るそれは…光さえも冷ややかで。受け入れられない自分を、思い知らされるように感じた。
「…時期だしね」
牡丹は少し物寂しげに呟いて、不意に視線を反らした。
と。
「一人でどないしたんや?寒いやろ」
それは。
その声は。
「山崎さん!」
寝転がる牡丹を覗き込むように、仁王立ちする山崎の姿。
(…悟られたくない)
…不安な自分を。当たり前にくる明日を、躊躇ってしまう自分を…
「星を…星が綺麗で」
苦しい言い訳だっただろうか。
今の牡丹は、冷笑するような星から逃げるように、横背を向けている。
山崎はそれに気付いているのか、いないのか…けれど淡い笑みを浮かべると、躊躇い無く牡丹の隣に腰を落ち着けた。
「綺麗やな?一人で抜け駆けやな~」
茶化すような山崎の口調に、「そんなつもりは…」牡丹は言いながら、一度横背を向けた空をもう一度仰ぎ見た。
風が、二人の衣を揺らす。
(寒いな…)
寒い。冷たい。…不安…けれど。
牡丹は何やら違和感を感じて、散らばる星に魅了された。
さっきまでは…星にすら冷笑されているようで、自分から背を向けたのに。
「雰囲気が…変わった…?」
呟く牡丹の瞳に映る星は、番井を求めるような蛍火のように温かく。キラキラと煌めいて、月よりも眩しい。
「山の星も綺麗やったけど、わいは此処から見える星が好きやな」
場所は違えど、見える星は同じなのに?
疑問に思いつつ…
「そうですね…私も好きです」
思わず牡丹も顔を綻ばせる。
山崎はそんな牡丹の横顔に、優しく微笑しながら「ほおやろ?」頭を撫でた。
触れる山崎の体温。
温かい手の平。
心地好い感触。
ああ、だから。
これが在るから。
ぬくもりが、伝わってくるから。
(…安心…出来た?)
「一人で見るより、二人。やろ?」
笑い掛けて言う山崎に、一瞬牡丹の心臓が大きく脈打った。
(敵わないな…)
山崎には。
きっと、全部見透かされていたんだろう。牡丹は思って、
「初めて山崎さんと見た日を思い出します」
自分だけを見てくれている星もある。
「あの言葉に、とても救われました」
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