第七章『花金鳳花』

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近藤と盃を交わした後、牡丹は一つの約束を残して屋根瓦に寝転がっていた。 冷たい風が、昼間の冷視線を彷彿させる。 空は、きっと明日も晴れるだろう満天の星が煌めくのに、一人で仰ぎ見るそれは…光さえも冷ややかで。受け入れられない自分を、思い知らされるように感じた。 「…時期だしね」 牡丹は少し物寂しげに呟いて、不意に視線を反らした。 と。 「一人でどないしたんや?寒いやろ」 それは。 その声は。 「山崎さん!」 寝転がる牡丹を覗き込むように、仁王立ちする山崎の姿。 (…悟られたくない) …不安な自分を。当たり前にくる明日を、躊躇ってしまう自分を… 「星を…星が綺麗で」 苦しい言い訳だっただろうか。 今の牡丹は、冷笑するような星から逃げるように、横背を向けている。 山崎はそれに気付いているのか、いないのか…けれど淡い笑みを浮かべると、躊躇い無く牡丹の隣に腰を落ち着けた。 「綺麗やな?一人で抜け駆けやな~」 茶化すような山崎の口調に、「そんなつもりは…」牡丹は言いながら、一度横背を向けた空をもう一度仰ぎ見た。 風が、二人の衣を揺らす。 (寒いな…) 寒い。冷たい。…不安…けれど。 牡丹は何やら違和感を感じて、散らばる星に魅了された。 さっきまでは…星にすら冷笑されているようで、自分から背を向けたのに。 「雰囲気が…変わった…?」 呟く牡丹の瞳に映る星は、番井を求めるような蛍火のように温かく。キラキラと煌めいて、月よりも眩しい。 「山の星も綺麗やったけど、わいは此処から見える星が好きやな」 場所は違えど、見える星は同じなのに? 疑問に思いつつ… 「そうですね…私も好きです」 思わず牡丹も顔を綻ばせる。 山崎はそんな牡丹の横顔に、優しく微笑しながら「ほおやろ?」頭を撫でた。 触れる山崎の体温。 温かい手の平。 心地好い感触。 ああ、だから。 これが在るから。 ぬくもりが、伝わってくるから。 (…安心…出来た?) 「一人で見るより、二人。やろ?」 笑い掛けて言う山崎に、一瞬牡丹の心臓が大きく脈打った。 (敵わないな…) 山崎には。 きっと、全部見透かされていたんだろう。牡丹は思って、 「初めて山崎さんと見た日を思い出します」 自分だけを見てくれている星もある。 「あの言葉に、とても救われました」
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