第七章『花金鳳花』

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救われた。あの日、山崎の言葉は、自然に心に染み滲んだ。 けれど… 「あの時と今は違う…かな?」 牡丹がゆっくり山崎の横顔に、目を細める。 その顔はまるで。 「山崎さんは…手の届く星。みたい」 牡丹が無意識に冷えた指先を、山崎の頬に触れる。 (あたたかい…) 山崎は冷たい牡丹の指先と、咄嗟の事に一瞬目を見開いたが、 「な?一人より二人。やろ?」 牡丹の手首を掴み、その掌をぴたり。自分の頬に宛がった。 「山崎さん、あったかい」 ふふ。笑みを漏らす牡丹に、山崎は安堵を浮かべる。 そして…自然に重なるのは。 「わいは…牡丹が好きや…」 甘い囁きと、触れるか触れないかの幼い唇。 何度救われただろう。 気付けば何時も、側に居てくれた。 全くの赤の他人なのに、気持ちが…溢れる。 「私も…好きです」 今なら分かる。 ただ山崎が情けを注いでいたのでは、無い。そう期待していた自分が。 初めて会った頃から、きっと種は育ち続けていた。 「きっと、初めて会った頃から好きだった…」      惹かれて。      引いて。      引かれて。      惹かせて。 これが、人間らしい感情。人間で在りたい。と、願って止まない牡丹に芽生えた、一人の女としての気持ち。 山崎は「冷えるな」言いながら、自分の羽織りの中に牡丹を座らせ、後ろから優しく包み込むようにしながら、二人で星を見上げた。 「わいが…ずっと守ったる。一人にせん。牡丹もや」 幾千の星に願う。 (どうか。ずっと私の星で…居て) 「一人にしません。一人にもなりません。」 牡丹の覇気ある声。 「守りたい…私も」 皆を。 愛しい人を。 願った幾千の星を。    ‐ 守りたい。‐ 「山崎さん、私。明日正式に入隊します。」 山崎の身体が、ぴくり。反応する。 「…入隊?意味、分かっとんか…「分かってるから、守りたい。私は、ただ帰りを待つだけじゃ我慢出来ないから…」 守りきれなかった、‘あの日’を。もう一度やり直したい。 そう思える人に、出会えたから。 「近藤さんには許して貰ってます。私、山崎さんと同じ視点で居たい。」 その言葉は、とても言っては聞かない声色で。 山崎は喉から手が出る程止めたかったけれど、牡丹の紅い瞳に戻った光に、ただ苦笑して見せた。
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