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きゅくるるるる…
空気を読まない腹の虫が、騒ぎ出した。
「いこか!」
立ち上がり、手を差し出す山崎に、牡丹は腹の虫を呪いながら、何処へ?首を傾げた。
「腹、減っとんやろ?握り飯作ったる」
言う山崎は意気揚々としていて。
理由はすぐ分かった。
人で在ることを放棄した時は、何も気にならず、何も無くても生きていけたから。
だから。
(恥ずかしくても、人で在ることの証。)
「お帰り。牡丹」
山崎が繋いだ手を引寄せ、ギュッと耳元で囁く。
もう…何処にも飛んで行かないように。
「ただいま!烝さん」
そうして出された握り飯に、一口。手に取れば關を切ったように食べる仕草が止まらない。
食べる。というより、放り込む。ように…
「何日もマトモに食うて無いやんな」
山崎はお茶を淹れながら、目を細くして笑んだ。
空腹。飢餓感。人間にあって当たり前のもの。
「んん~おいひ(し)~」
今、牡丹は幸せ絶頂期。
「烝さん、帰ってきたんだよね」
牡丹は手と口を止め、一連を思い出しながら清々しく笑った。
「言うたやろ?お帰りて。帰ってきてくれて、ありがとうな」
山崎も優しく笑んだ。
と、
カタン。
二人しかいない賄い場に、物音。山崎がすかさず身構える。
けれど其処に見えたのは…
「牡丹、もう大丈夫みたいだな」
白蛇だった。
その姿に牡丹は笑って頷いて見せた。
白蛇は「手の焼ける」と愚痴りながらも、ぐしゃぐしゃ。牡丹の頭を撫でやった。
「先生が来たって事は…」
牡丹が突如真剣な顔付きになる。
それに応える白蛇もまた、真剣だ。
「思ったより早かったです」
牡丹が言えば、
「誰に言ってる?」
白蛇が手荷物をズシリ。牡丹に持たせた。
「最高の仕上がりじゃないと嫌。なんて、女のお前が言うなよ」
牡丹の我が儘に、白蛇はそれでも嬉しいように見えた。
「ありがとうございます!」
牡丹は頭を下げる。
と、山育ちの牡丹。
その視力は昼夜を問わず。
「先生…?足が…」
釘付けになる牡丹。
白蛇の足が、濃い紫のような…黒いような…
「…ああ、これは…」
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