第七章『花金鳳花』

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きゅくるるるる… 空気を読まない腹の虫が、騒ぎ出した。 「いこか!」 立ち上がり、手を差し出す山崎に、牡丹は腹の虫を呪いながら、何処へ?首を傾げた。 「腹、減っとんやろ?握り飯作ったる」 言う山崎は意気揚々としていて。 理由はすぐ分かった。 人で在ることを放棄した時は、何も気にならず、何も無くても生きていけたから。 だから。 (恥ずかしくても、人で在ることの証。) 「お帰り。牡丹」 山崎が繋いだ手を引寄せ、ギュッと耳元で囁く。 もう…何処にも飛んで行かないように。 「ただいま!烝さん」 そうして出された握り飯に、一口。手に取れば關を切ったように食べる仕草が止まらない。 食べる。というより、放り込む。ように… 「何日もマトモに食うて無いやんな」 山崎はお茶を淹れながら、目を細くして笑んだ。 空腹。飢餓感。人間にあって当たり前のもの。 「んん~おいひ(し)~」 今、牡丹は幸せ絶頂期。 「烝さん、帰ってきたんだよね」 牡丹は手と口を止め、一連を思い出しながら清々しく笑った。 「言うたやろ?お帰りて。帰ってきてくれて、ありがとうな」 山崎も優しく笑んだ。 と、 カタン。 二人しかいない賄い場に、物音。山崎がすかさず身構える。 けれど其処に見えたのは… 「牡丹、もう大丈夫みたいだな」 白蛇だった。 その姿に牡丹は笑って頷いて見せた。 白蛇は「手の焼ける」と愚痴りながらも、ぐしゃぐしゃ。牡丹の頭を撫でやった。 「先生が来たって事は…」 牡丹が突如真剣な顔付きになる。 それに応える白蛇もまた、真剣だ。 「思ったより早かったです」 牡丹が言えば、 「誰に言ってる?」 白蛇が手荷物をズシリ。牡丹に持たせた。 「最高の仕上がりじゃないと嫌。なんて、女のお前が言うなよ」 牡丹の我が儘に、白蛇はそれでも嬉しいように見えた。 「ありがとうございます!」 牡丹は頭を下げる。 と、山育ちの牡丹。 その視力は昼夜を問わず。 「先生…?足が…」 釘付けになる牡丹。 白蛇の足が、濃い紫のような…黒いような… 「…ああ、これは…」
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