第六章『立波草』

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静まり返った町を、それに不似合いな二人が、屋根から屋根へ伝い走る。 まるで自分も、人ではないのではないだろうか。暗闇に、山崎はそんな錯覚を覚えた。 けれど… 『成る程。流石は監察方を名乗るだけある。が、やはり所詮人間だな。』 白蛇は山崎の脚力を称賛しつつ、 『急を要する。…乗れ。』 未だ牡丹にしか見せた事の無かった、本来の姿に成り変わった。 その姿は、理由を知らない人間ならば、悲鳴をあげても可笑しくない程に、大きな蛇の姿。 けれど、知って。予測出来るだろう山崎は、悲鳴ではなく。 「…綺麗やな…」 一言。本音を漏らした。 牡丹と同じ、紅い瞳は愁いを含んで輝き、身体中を覆う鱗は月の反射で、一枚一枚が色を変え。…まるで、虹のよう。 甘い溜め息を漏らしそうな山崎に、白蛇は別段嬉しげにする訳でも無く。 むしろ、 『気持ちの悪い目で見るな。早くしろ。』 突き放すように言い、急かした。 それに目を覚ましたように、言われるがまま、白蛇の背に戸惑いながら乗る山崎。 「牡丹は…ほんな悪いんか…」 白蛇が自分の手を借りに来る程、牡丹の状況は悪いのか。と。 壊れてしまった牡丹を、目の当たりにしているからこそ。聞く事が許される事。 白蛇は砂埃を巻き起こしながら、空高く舞い上がった。 手を伸ばせば、星の一つも掴めるかもしれない。と、思う程に。 そして…山崎の問い掛けに、『それに答えるならば、全てを知るべきだ。』言い、昔話を始める。 『牡丹は半妖だと話したね?』 黙って頷く山崎。 『‘隔世遺伝’を知っているかい?初代親の世代でも…つまり、私の初めての子には、それは現れない。現れるのは…その子の子であったり孫であったり。様々で、それが簡単に説明出来る仕組みだ。』 それがどう牡丹に繋がっていくのか。早く知りたい一心で、山崎は大きく頷いて見せた。 『私の子を宿した松葉家では、それから幾度かその血筋を持って生まれる子らが居た。ただそれは、極稀に、紅い瞳を片目に現したり、この身のように虹色にも見える鱗の片鱗を、少しばかり現す程度のものだった。』 白蛇の言葉が過去形で在る事と、自分が見た牡丹の顔…それに山崎が気付かない筈が無かった。 牡丹は…誰よりも濃く、その血を引いてしまった。それは、見た目だけで無く、未だ嘗て無い程に力さえ持って生まれて。 …故に、『半妖』なのか。
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