第六章『立波草』

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自分を騙し、利用し、人殺しの駒にした‘局中法度’。 けれど、山崎から以外な言葉が返ってきた。 「あれはな。副長が作ったんや。」 何故? 「組の命を預かる人間が、剣を預かる自分を忘れんように。血の道と言われながらでも、己の信念が其処に在ると貫いて。」 では… それでは… 自分は、愚かな人間だ。と、勝手に思い違いをしていたのか。 「芹沢局長らを粛清する前に。副長は自分で自分を戒めたんや。」 全ての咎は自分に在る。と。 「わいらは牡丹を騙したり、利用したりはしてない。ほう言うたら只の言い訳にしか聞こえんかもしれんけど……」 言葉を濁す山崎に、牡丹は苦くも確かに微笑した。 「私は何も見えていなかったんだね。ただ過去の柵に、勝手にそれを重ねて。見ようともしてなかったんだ。」 牡丹の心の扉に、僅かに光が射し込んだ。それは、人としての大きな一歩になるのだろう。 「山崎さん、私…もう一度、帰ります。山崎さんの言葉だけでも、十分な気がする自分も居るけれど…やっぱり、この目で見て、確かめたい。帰っても…良いですか?」 まだ完全に開いた訳ではない。けれどその言葉は、きっと牡丹の扉を壊してしまうだろう。山崎は思い満面の笑みで、 「当たり前や!ほの為に空飛んで来たんやで?」 ごっつ怖かったわ… 白蛇の背中に乗せられて「落ちたら即死や」思いながらも、此処まで来た山崎を、牡丹は腹を抱えて笑った。 『話が纏まったみたい?良かった良かった~』 そう言えば、白蛇は何処に居たのか。 …自分達を捨て置いて。 牡丹は仕様がないな。困ったように笑うと、 「先生。…帰ります。」 白蛇は最早自分を‘穂月’と呼ばなくなった牡丹に、安堵した。 まだ気を許せはしないけれど。今の牡丹の紅い瞳は、一点の濁りも無かったから。 『待ってたよ。牡丹。‘あの人’とは違うけれど、牡丹はとても大切な家族だからね。』 白蛇の言葉に、また一欠片牡丹の心が、扉を開ける。 そうやって、きっと扉は無くなっていくのだろう。 優しさに、触れて、見て。強く優しくさせるのだろう。 と、 『今日はもう遅い。えー…と、何君?』 連れてきて置いてこの仕打ち。牡丹の度忘れは、間違いなく白蛇譲りのものだろう。 「烝です…山崎 烝。」 落ち込み気味な山崎だが、白蛇はまるで気にしていない。 『明日帰りなさい』
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