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町とは違った山の寒さに、白蛇は熊の毛皮を貸してやった。
それにくるまり、二人並んで空を見上げる。
「山の星は町より綺麗やな」
山崎の言葉に、思い出す。幾千の星があろうとも、自分だけを見てくれている星が在る。と。
「これで二度目ですね。山崎さんと見る星は、冬になっても温かい…」
小さく淡い光でも、言葉と一緒に心に染み入ってくるような温かさが、確かに在る。
それに救われたのだ。自分は。
失くしたものを重ね見るのではなく、見られているのは自分。見てくれているのは、自分なのだ。と。
「ほおやな。ほやけど今日は、牡丹の門出を祝して大きい行こか!」
山崎は言うと、他意は無く。牡丹の肩を引き寄せる。
「星はな、線に繋がるんやで?バラバラに見えて、実はお月さんより大きいんや」
言うと、山崎は空の星を指でなぞりながら、点と点を結んでいくように線を描く。
それを牡丹は、胸を踊らせるように、目で追い顔で追い。
「なんや…かっこつけた割には、イビツやな…」
山崎がぼやくのも当然。全てが線になぞられても、決して丸い月には成らないし、大輪の花のようには咲かない。
けれど…
「イビツだから、綺麗です。まるで…」
それは、個性を持った人達のようで。
「新撰組、ですよ」
言って、牡丹は笑った。
決してお膳立てしている訳ではない。
人間は、それはもう人各々で。
だからこそ、色んな意見が集まるし、争い事にもなる。
それこそが、人間というものでは無いだろうか。
そんな風に思ったのだ。
「ほおやな…ほう言われて見たら、新撰組の縮図みたいや。不器用者でひねくれ者の集まりや!」
「山崎さん…それ、お世辞にも誉めているように聞こえない…」
牡丹に言われ、山崎は暑くもないのに、額に汗を感じ、
「…内緒や」
呟いた。
そんな姿がまた可笑しくて、牡丹はまた笑った。
夜が明けて、いよいよ帰省。そんな二人に白蛇は見送りに立った。
『気をつけて』
白蛇の一言に、呆気に取られる牡丹。
初めて旅立つ時も、そんな事は言わなかった。
けれど…この時も牡丹は自分の事に精一杯で。後に悔いる事も知らず…
そうして遠くなっていく二人に、白蛇はドッと地面に倒れ込んだ。
目覚めてしまった白蛇の感情線。
それに縋りついてくるのは…どこまでも黒く暗い『不浄』
『背中押すくらい許してくれよ』
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