第六章『立波草』

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町とは違った山の寒さに、白蛇は熊の毛皮を貸してやった。 それにくるまり、二人並んで空を見上げる。 「山の星は町より綺麗やな」 山崎の言葉に、思い出す。幾千の星があろうとも、自分だけを見てくれている星が在る。と。 「これで二度目ですね。山崎さんと見る星は、冬になっても温かい…」 小さく淡い光でも、言葉と一緒に心に染み入ってくるような温かさが、確かに在る。 それに救われたのだ。自分は。 失くしたものを重ね見るのではなく、見られているのは自分。見てくれているのは、自分なのだ。と。 「ほおやな。ほやけど今日は、牡丹の門出を祝して大きい行こか!」 山崎は言うと、他意は無く。牡丹の肩を引き寄せる。 「星はな、線に繋がるんやで?バラバラに見えて、実はお月さんより大きいんや」 言うと、山崎は空の星を指でなぞりながら、点と点を結んでいくように線を描く。 それを牡丹は、胸を踊らせるように、目で追い顔で追い。 「なんや…かっこつけた割には、イビツやな…」 山崎がぼやくのも当然。全てが線になぞられても、決して丸い月には成らないし、大輪の花のようには咲かない。 けれど… 「イビツだから、綺麗です。まるで…」 それは、個性を持った人達のようで。 「新撰組、ですよ」 言って、牡丹は笑った。 決してお膳立てしている訳ではない。 人間は、それはもう人各々で。 だからこそ、色んな意見が集まるし、争い事にもなる。 それこそが、人間というものでは無いだろうか。 そんな風に思ったのだ。 「ほおやな…ほう言われて見たら、新撰組の縮図みたいや。不器用者でひねくれ者の集まりや!」 「山崎さん…それ、お世辞にも誉めているように聞こえない…」 牡丹に言われ、山崎は暑くもないのに、額に汗を感じ、 「…内緒や」 呟いた。 そんな姿がまた可笑しくて、牡丹はまた笑った。 夜が明けて、いよいよ帰省。そんな二人に白蛇は見送りに立った。 『気をつけて』 白蛇の一言に、呆気に取られる牡丹。 初めて旅立つ時も、そんな事は言わなかった。 けれど…この時も牡丹は自分の事に精一杯で。後に悔いる事も知らず… そうして遠くなっていく二人に、白蛇はドッと地面に倒れ込んだ。 目覚めてしまった白蛇の感情線。 それに縋りついてくるのは…どこまでも黒く暗い『不浄』 『背中押すくらい許してくれよ』
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