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「山崎さんの守りたいものは何?」
寒い。そう言い合って、まだ薄暗い町へと続く細い山道を肩を並べて歩いた。
「んん?んー…ほおやなあ…」
山崎は即答してくると思っていたから、牡丹は考え悩む姿に呆気に取られた。
「そんなに…考える事?」
昨日はあんなに熱くなっていたのに、いざ聞いてみれば、答えは中々返ってこない。牡丹はそれに少しの不安を覚える。
「ほら考えるわ。猫の手も借りたいくらいや。」
腕組みする山崎に、牡丹は首を傾げて見せた。
「新撰組っちゅうもんは、幕府を守る為。洛中の治安を守る為。けど、ほれはわいには大きすぎる。わいはな?この両手で守れるもんが在ったら、それで十分なんや。」
山崎は言いながら、ゴツゴツと大きな両手を、広げて見せる。
「何もかんも一人で出来る事や無いやろ?わいは自分が可愛いし、死ぬんは嫌や。ほれでもこの道を選んだんは、ただ道が在るからや。」
山崎の言葉に、訳は分からないし、それだけ?思う自分がいる。
けれど…
「ただ、その道に自分と同じ信念を持った、‘仲間’がおる。ほれだけや。わいが守りたいもんは。」
一人では、出来る事など、たかがしれている。
けれど一人が二人になり、二人が三人になり…そうやって集う者らを、守りたい。と。
それだけで十分なのだと。
山崎の言う意味が分かる気がする。
一人で出来ない事を、支え合って、励まし合って、傷を分かち合って。
そんな人達を守るからこそ、太く大きな柱になり、それはやがては大事を守る事になる。
けれど…
(そんな人間ばかりじゃない。)
些か綺麗事すぎる気もしたが…
「山崎さんらしいね」
牡丹は笑って、その答えを受け入れた。
その答えこそが、山崎の『義』なのだと。
「牡丹も入っとんやで?忘れるなや?」
山崎は微笑し、牡丹の頭を優しく撫で付ける。
「わいが命を懸けとんや。忘れたら…」
「いたっ!いたたたたたたた!!??」
優しかった山崎の手が、拳骨になり、摩擦する。不意を突かれた牡丹は、逃げようにも逃げられず、ただ悲痛な声を上げた。
「わかったんか?」
「わかりました!」
そうして町に着く頃には、既に日が高く昇り始めていた。
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