第六章『立波草』

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「そう言えば」沖田が不意に、牡丹の素顔を撫でた。 「面をするのは…もう止めたんですか?」 それに牡丹は少し照れ臭そうにしながら、 「御山では無くて当たり前だったから忘れてた…それに。」 それに。 「誰かに受け入れて貰いたい。そう思うなら、自分から変えて行かないといけない気がして。」 今まで自分は誰かの所為にするばかりで、自分から何かを変えようとしなかった。 ただ誰かの優しさに甘えて、自分の事ばかりで。 それでは何も変わらなかったのに。‘今’を見てない自分は気付けなかったんだ。 そんな牡丹の顔は、やっぱり優しい紅い瞳をして、キラキラと顔を輝かせた。 それは沖田以外でも見間違う事の無い程の、牡丹の成長振り。 「そうですね。なら…俺はその一番目に成れましたね」 沖田が微笑んで言う言葉は、牡丹にとって願ったり叶ったりで。 あんなに罵倒した自分を、それでも受け入れてくれる。 …それは、あの時あの場所に居た人に、先ずは受け入れて貰いたい。そう思っていた牡丹を舞い上がらせた。 と、 「ほれは譲れんで!?」 何処からか山崎が急に姿を現した。 何を譲れないのか?牡丹は首を傾げている。 「第一号は、わいや!」 まあ。確かに。此処まで連れ帰ってくれたのは、他でもない山崎で。 何より自分とぶつかってでも、面と向き合ってくれた。 「え――――」 面白くない。と言わんばかりの沖田に、胸を張る山崎。 牡丹はそんな光景に、腹を抱えて笑った。 「誰が一番でも構いませんよ!そう言ってくれる皆が、私にとって一番です♪」 そんな牡丹の言葉に、沖田と山崎は顔を見合わせ、伐の悪い顔をしながらもハニカミ笑うように頬をポリポリ。掻いた。 それはそれで、牡丹には微笑ましい光景なのだけれど。 山崎の『義』。 沖田の『義』。 土方の『義』は、山崎に聞いたから分からないでも無い。けれど…まだ知りたい事がある。 牡丹は、 「土方さんに挨拶してきます」 言って、二人を残し廊下を走った。 …残された二人。 「山崎さんは過保護ですねえ」 「わいは保護者ちゃう。」 「じゃあ何ですか?」 沖田に問われ、顔を赤くしながらも口ごもる山崎。 沖田はそれに悪戯に笑って見せると、 「山崎さんがまだ、そんななら。俺も頑張ってみる甲斐もありそうかな」 …宣戦布告?
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