第六章『立波草』

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新撰組という血の絶えない所で、生きる覚悟が牡丹には在るか。と。 土方の言っている事はよく分かる。芹沢や梅のように、命を落とす人間は、きっとこれから数知れない。 それに、自分は「付いてこられるのか。」と。「耐えられるのか。」と。 けれど…山を降り、山崎や沖田の言葉に、牡丹の中にはまだ形は不恰好だが覚悟は…在る。 思いながら牡丹は「無ければ帰ってきません」言って、意思表明して見せた。 沢山人を巻き込み、傷付けながら。それでも自分は生きている。 思い出したのだ。 「強くなりたい」と言ったのは、周りも自分も傷付けたく無い。そう思ったからだ。 自己満足でも、それが自分にとって人間を信じる『義』の形。 そんな牡丹に、土方はやっと顔を緩めた。 「なら…此処でお前の『義』を見ててやる。」 その精神は、誰よりも美しく。そして強い。そう思ったからだ。 牡丹は「ありがとうございます」微笑して、本当に知りたかった真実に本腰を入れる。 「土方さん。芹沢さんを殺そうと私を利用したんですか?」 一番聞きたかった事。 自分は人殺しの駒でしか無かったのか。 聞く牡丹に、土方は黙って頭を下げた。 「今更何を弁明するつもりは無い。だが知って欲しい。お前を駒とか、利用とか。そんなつもりは更々無かった。ただ…」 言い掛ける土方だが、牡丹はその言葉の先が分かった。 ただ土方は、不器用な優しさ故に、自分に真実を打ち上げられず。こうなるとは予想もして居なかった。 ただ、自分達だけで咎を負い、明らかに心を許していた自分に、芹沢と梅を偲んで欲しかっただけ。 「…あまり、甘やかさないで下さいね?」 牡丹は苦笑しながらも、その優しさに心から詫びた。己の言動に。 何にも気付こうとしなかった自分を、許して欲しい。と。 そんな牡丹に、土方が頭を上げて見える姿は…半妖では無く。人の心を兼ね備えた女神に見えて。 紅い瞳は過去に縋るのでは無く。光の反射に色を変える牡丹の顔に。 ただ…穏やかに目を細めた。 柄にもなく女に見とれる事など無かった土方の顔が、初な青年に見えて。牡丹は喉を鳴らす。 そんな牡丹に、土方は話を反らすように、 「…今夜は近藤さんに付き合ってやってくれ」 静かに言った。 (何があるのか…) ……近藤は、‘あの時’からずっと、時間を止めたまま。 ただ。牡丹を待つようにして。 知らないのは、牡丹だけだ。
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