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「壁が薄いですからね、このアパート。だから筒抜けでした。という事はもしかしたら七菜ちゃんにもその喧嘩が聞こえていたかも知れないです。外に遊びに行っても外からも聞こえますからね」  私はそこまで言うと、止めて欲しい本当の理由を話すべく一呼吸間を空けた。 「実は私の両親も私のことで喧嘩をしていたんです ……」  私は自分自身が置かれた処遇、心情、感情を全て包み隠さずおばさんに話した。  おばさんはその話を真摯に受け止めてくれたのか、開いた口を閉じずに呆然と立っていた。 「だから、私と同じ様な子をこれ以上増やさないで下さい。お願いします」  私は深々と頭を下げておばさんに懇願した。それに対し、おばさんはその目に微かに涙を溜めながら、時おり頬を伝わせながら、口に手を当てる。 「……はい」  おばさんは搾り出したような微かな返事をした後、我慢していたものがはちきれた様に大量の涙を零す。 「ごめんなさい、ごめんなさい……」  私に謝られても困る。おばさんに育てられたわけでもないし、謝るとしたらそれは七菜ちゃんに謝って欲しい。 「お願いしますね」  私はそう言うと踵を返して勝義さんが待っているアパートの階段へと歩いて行く。 「お待たせしてすみませんでした」 「ええよ。こんなの必要最低事項やろ」  勝義さんはそう言いながら空き地を見下ろす。 「椿ちゃんと同じ苦しみをあの純情無垢な子に味合わせない為の」  ……ところで勝義さんは七菜ちゃんがどの子か判っているのだろうか。
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