913人が本棚に入れています
本棚に追加
「なり」
静寂に落とされた声。
「蒼」
いつの間に起きて、
車を降りて佇む蒼くん。
一宮は直ぐ様、近付いて
腕をきゅっと掴んだ。
「きちゃった」
「うん」
一宮は蒼くんしか見ない。
「ひろくん」
「あ、はい」
蒼くんは笑いかける。
八重歯がチラリと見えた。
「あんがと」
「や、うん」
「おやすみ」
「今まで、おやすみだったけどね」
「ふふ、ごめんねぇ」
反省の無いふんにゃり笑いに
直させる気の無い俺も笑い返す。
「おやすみ、蒼くん」
「気をつけてねぇ」
ぷらぷら手を振る彼をも一度見て
一宮の視線にぶつかった。
「一宮も、おやすみ」
俺の言葉に彼は頷いた。
乗り込んだ車で夜道を走り出す。
真っ直ぐな道の向こう、
空は雲の流れが速くて。
切れ間に星が顔を出した。
柔らかい、青の光。
歌うように、瞬く。
星の名は、知らない。
.
最初のコメントを投稿しよう!