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「蒼くん、着いたよ」
そっと揺らしてみる。
起きない…。
寝入っちゃったみたいだ。
エンジンまで切れば
薄く開いた唇から
寝息の音まで聞こえてきた。
街灯が影を落とす。
人通りはなくて
それは寒さの所為かも知れない。
もう一度、彼を見た。
ぷくんとして柔らかそうな唇。
どこまでも押し沈むそれに
夢中で吸いついた記憶が
ふと、蘇った。
淡く、溶けそうに儚いのは
あなたがこの世界に
途方もなく傷ついているからだ。
抱きしめたいよ。
俺の腕を望んでいなくても。
「俺んちに来る?蒼くん」
柔らかい髪に手を伸ばす。
コツン。
微かな音に手が止まった。
目を上げると…、
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