言葉のゴミ箱(転)

4/11
前へ
/11ページ
次へ
しばらくの間、呆然とベッドの上にいると、いきなりドアが開いた。お袋が飛び込んできた。 顔の筋肉を一切動かさず、首の動きだけでお袋を見た。ノックだとかで怒る気力が起きなかった。 大変だよ。声が出ないよ。俺のせいだよ。ベッドの上で口を動かす。 お袋はなにをそんなに慌てているのか、俺の肩をつかんだ。 そして叫ぶ。 「        」 …………あれ? なんにも聞こえて来なかった。テレビの消音ボタンを押したようだった。 お袋が肩を揺らす。口は動かしたまま。 だが、声は、ない。 「      」 また口が動く。やはり声は無い。音は聞こえているから、鼓膜は正常のはずだ。 とすれば。……どういうことだ? ガクガクと小さく揺れる視界の中、ちらちらと青が下に見えた。 ゴミ箱の色だ。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加