ピアノ

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私は、涙が溢れてきました。 きっとこれは、この女の人の娘さんの涙と一緒だわ、と思いました。 涙を拭くことも忘れ、曲に聴き入りました。 女の人は、 「聞いてくれてありがとう。」 そう言って、手を差し出しました。 私は涙を拭い、手を差し出し握手を交わしました。 私は、それ以上なにも言えませんでしたし、なにもできませんでした。 女の人は赤い布をピアノの上にひいて、そっとふたを閉じました。 「娘のための、最期の演奏です。私は、病気のため来年には、もう弾けなくなるでしょう。」 女の人は、笑顔を見せました。
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