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あたしが寝転ぶベッドの横に椅子を置き、男はそこに腰掛けた。
「一応来てやったけど、見舞いって何すりゃいいわけ? 粥とか作ったほうがいい?」
「いらない……。さっきレトルトのやつ食べて、薬飲んだ」
「おー、えらい。さすがしっかりしてんなぁ」
軽いノリで、男は感心したように背筋を伸ばした。
熱と薬のせいでぼんやりしていたので、まともに相手をする気にはなれなかった。
「見舞いなんていいから、帰って」
「せっかく来たんだ。寝付くまでいるよ」
「余計なお世話……」
「安心しろ。襲やしねぇから」
そういうことじゃなくて、あんたと同じ空間にいたくないってだけなんだけど──。
でも、もう口を開くのも億劫で、あたしは黙り込んだ。こうなったらさっさと寝よう。そう思い、目を閉じる。
────……
静か、だ。
なんとなしに、目を開いてみる。男は、さっきと同じようにベッド脇に座って、どこかを見ていた。それはそれは遠い目で。
「──何を考えてるの?」
ふと、あたしは訊いた。男の瞳が、前に見た時と同じ、深い悲しみの淵(ふち)に佇んでいたから。
「ん? ああ、いや……」
珍しく歯切れ悪くこぼし、男は目を伏せた。
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