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「ずっと前にも、こんなことがあったなと思って」
「……あんたって、よく人間に取り憑いて嫌がらせしてるの?」
胡乱げに訊くと、男は薄っぺらに微笑み、信じられない言葉を吐いた。
「俺にも人間だった頃ってのがあったんだよ」
熱に浮かされた脳が瞬間、サアッと冷えた。
けれど、男があまりにも自然に話すので、あたしはオーバーなリアクションが取れなかった。
「悪魔は、人間がなるものなの?」
「なる奴もいるし、ならねー奴もいる。半々くらいかな」
なんと。この世には、そんなにもたくさんの悪魔が存在するっていうのか。
「──うんと昔、俺が人間だった頃。俺の幼なじみの女もこうやって寝てた。そいつは病気だった。不治の病で、今なら治るらしいけど、その時には長くは保たないだろうって言われてた。16になる頃には完璧に寝たきりで、それでもいつもヘラヘラ笑って、『洋ちゃん、洋ちゃん』って俺を呼んだ」
こいつの名前は『洋』というのか。それとも略称だろうか。
新発見をしたような不思議な気分だった。あたしは、何も写していない目で独白を続ける『洋』を見つめる。
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