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どうしてこんなことを訊いているのか。絶対に深入りしないほうがいいに決まっているのに。本当かどうかも怪しいところなのに。あたしは訊いてしまった。それもかなり真剣に。
「……俺の幼なじみは、死ぬ、本当に直前。俺に『好きだ』って言ったんだ」
自分のまぶたが上に引っ張られるのを感じた。不自然に開いていく口は、何も紡がないままポカンと開けっぱなしになる。
「俺の未練は、あいつに『俺もだ』って返してやれなかったこと。これも、死ぬ時に気づいたんだけどね」
嘘ではない、と思った。嘘にしては、男はあまりに事を無感情に語りすぎた。それが逆に、リアリティのないリアルさを浮き彫りにして、物語の内容をノンフィクションにしてしまっていた。
「ハンバーガーは……」
そうだったのか──と思うのと一緒に、口が勝手に動いていた。
「ハンバーガーはおいしい?」
『洋』は、普段からは考えられない苦しい笑顔を作った。
「うん、うまい。あいつが生きてたら、食わせてやりたかった」
ろくな食い物がなかったから。そう呟いて、『洋』は窓の外を見た。窓ガラスの向こうには、閑静な住宅街が広がっている。太陽の光が辺り一面を照らして、輝いていた。命のきらめきのようで、眩しかった。
「今、生まれてきたかった」
聞こえるか聞こえないかの囁きに、あたしは泣きそうになった。
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