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手を伸ばして、そっと彼の髪に触れる。彼、という一人称が一体どちらに対してのものなのか、わからなくなりつつあった。
軽く髪を梳くと、くすぐったそうに身じろぎする。あたしの空気が、水に沈んでいくように軽く、重く、泡にまみれていく。サラサラと落ちていくような感覚。ああ、完全に狂っている。
ふと、恐ろしい考えが頭をよぎった。
──もし、このまま本当に一週間を過ぎてしまったら、優介は消え、この人は『洋』になるのかしら。
そして、あたしの恋人は、優しい彼から死んだ悪魔になるのかしら。
彼の頬が蛍光灯の下で白く光る。神聖なものに触れているようで、妙な背徳感があたしを襲った。地面がふわふわ揺れている。
ふと、ソファの隣にある引き出しに目が行った。上から二段目の引き出しが数cm開いている。
何の気なしに、あたしはそれを開けた。中には、綺麗にリボン掛けされた小さな箱があった。そして、その下に隠すように一枚の手紙が挟まれている。
──ドクン、と心臓が脈打った。あたしは急いで、手紙の封を切る。
ゆいちゃんへ。
もし口で言えなかった時のために手紙を書きました。みっともない男でごめんね。
でも、こんなみっともなくて情けないおれだけど、これだけはちゃんとしなくちゃと思ったんだ。
ゆいちゃん、結婚してください。ゆいちゃんの残りの未来を、おれにください。そして、おれの残りの未来も、ゆいちゃんにもらってもらえたら嬉しいなと思います。
優介より。
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