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「わかる?」とでも言いたげに、男は首を傾げた。頭の動きに合わせて揺れる茶色い癖毛も、さりげない福耳も、全てが優介なのに、何故。
「わかるわけないでしょ。吐くならもっとマシな嘘吐きなさいよ」
「嘘じゃねぇって。自分だって不思議に思ってるくせに。“外見はまんま優介なのに、どうして?”って」
「うるさい!」
あたしは、持っていたスーパーの袋を床に叩き付けた。卵が派手に割れる音が響いた。
「あーあ、もったいね」
「……どうしたら」
「ん?」
男の顔を見ずに、あたしは呟いた。否、見られなかった。
「どうしたらあんたは優介から出ていくの……」
「話が早いねぇ。さすが高校時代、三年間首席を守り続けたほどの才女だ」
心底楽しそうに肩を揺らし、男はあたしを見た。
だって、仕方ないのだ。この男の言ったことが真実でないと、どうしてもおかしいことがあるのだ。こいつが優介の体を借りた悪魔でないと、あたしはとんだ尻軽女ということになる。
男の首元、鎖骨の上あたりにうっすら残る赤い痕。あたしがあの日、この男にではなく、愛しい優介に付けた独占欲の証。
──ああ、気が狂いそう。
「俺を追い出す方法はただ一つ。お前が俺に抱かれることだ」
言葉と一緒に、耳鳴りが舞い込んだ。
「お前は一週間以内に俺に抱かれなくてはならない。さもなくば、お前の恋人は死ぬ」
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