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翌日。引っ詰め髪にノーメイク、上下スウェット姿というおそろしくダサい自宅仕様で男の元に向かうと、奴は腐った生ゴミを見るような顔で「無理」と言った。
「お前なぁ、いくらなんでもやりようがあんだろ。なんだよその『今日は仕事が休みだから家でゴロゴロするの~』的ファッション。萎えるわー」
「どうせ脱ぐのに格好なんて関係ないでしょ。スッピンの顔があまりに見苦しいのはしょうがない。これが自顔だから」
「顔がダメだなんて言ってねぇだろ。お前のスッピンで今さら驚くかよ」
「……どういうこと」
不審に思って、あたしは尋ねた。あたしはこの二日の間、男にスッピンをさらした覚えがない。
「脳みそは共有してっからな。優介の記憶は俺の記憶ってわけ。だから、お前のことならなんでも知ってるぜ。たとえば──」
「いい。言うな」
絶対に嫌だ。こいつの口から、あたしのあれこれなど聞きたくない。
そういえば、昨日もあたしが高校時代、成績優秀であったことを言い当てたりしてたな。……頭が痛い。
しかし、人格を乗っ取られているのに、記憶や動作なんかは優介だなんて。──やはり、優介がふざけただけの茶番ではないのだろうか。
そう思って男の顔を凝視してみる。目が合って、一瞬呼吸が止まって、すぐ逸らした。
鬼畜や嗜虐心や悪意ばかり飼っていると思ったその瞳が、異様なほどの悲しみを携えていたから。私などには想像もできない辛いことを乗り越えたような、そんな目をしていたから。
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