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「それじゃあ」
妙な気まずさから、あたしはごまかすように男の肩に右手を置いた。あ、優介の感触。
「嫌だ」
あたしをビリッと引き剥がして、男はソファにふんぞり返った。
「萎えたっつったろ。そんなやる気ねー態度じゃ、こっちもやる気失せるわ」
仕方ないじゃない。本当はやりたくなんかないんだから。
とは言わず、あたしは無理矢理、男の首に腕を回した。
「……そんなに“優介”が大事か?」
吐息が触れる距離で、男は言った。
「当たり前でしょ」
あたしは答える。
「ふーん」
興味なさそうに男は呟き、目を伏せた。
あたしの方が襲ってるみたいで複雑だけど、抵抗しなくなったので、その唇へ自分の唇を寄せた。
ああ、これでやっと──
「……腹減った」
唇が重なろうとした刹那、男は立ち上がった。あまりに急だったので、あたしはその場に尻餅を付いてしまった。
「な、なによ」
「腹減った。なんか食いに行こうぜ」
「はあ!?」
男が時計を見やる。時刻は夜の8時前だった。確かに夕食時ではあるけれど……
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