今宵、悪魔の眠る城で

7/20

131人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
  「それじゃあ」  妙な気まずさから、あたしはごまかすように男の肩に右手を置いた。あ、優介の感触。 「嫌だ」  あたしをビリッと引き剥がして、男はソファにふんぞり返った。 「萎えたっつったろ。そんなやる気ねー態度じゃ、こっちもやる気失せるわ」  仕方ないじゃない。本当はやりたくなんかないんだから。  とは言わず、あたしは無理矢理、男の首に腕を回した。 「……そんなに“優介”が大事か?」  吐息が触れる距離で、男は言った。 「当たり前でしょ」  あたしは答える。 「ふーん」  興味なさそうに男は呟き、目を伏せた。  あたしの方が襲ってるみたいで複雑だけど、抵抗しなくなったので、その唇へ自分の唇を寄せた。  ああ、これでやっと── 「……腹減った」  唇が重なろうとした刹那、男は立ち上がった。あまりに急だったので、あたしはその場に尻餅を付いてしまった。 「な、なによ」 「腹減った。なんか食いに行こうぜ」 「はあ!?」  男が時計を見やる。時刻は夜の8時前だった。確かに夕食時ではあるけれど……  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加