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不思議そうな、でもどこか余裕を滲ませた顔で、こっちを見下ろしながら言う。
中性的な、少年のようにも女性のようにも聞こえる声はアルト。
そもそも性別のない種族かもしれない。
言い返したくても、人通りのある今は何も言えなかった。
虚空に喋る変な人になっちゃうから。
シルクハットの人はくすりと笑うと、首を傾げた。
「お気になさらず。『こっち』には、正規のルートを使って仕事で来ているだけさ。今はサボってるけどね」
不敵な笑みを浮かべたまま、シルクハットはすっと右手を挙げた。
何もないはずの所から金色のステッキが現れ、それを掴む。
器用にくるりと回した瞬間、周りの空間が歪んだ。
ぎゅうっと引き伸ばされるように景色が捻れる。
「何だよ、これっ!」
突風に煽られるような感覚に襲われ、冬矢が私の肩をぎゅっと抱いた。
目をきつく閉じて――やがてその感覚が無くなったころ、恐る恐る瞳を開ける。
そこは、不思議な空間。
白黒の市松模様がどこまでも続く、何もない場所だった。
「喋りにくいだろうと思ってね。ちょっぴり場所を移動させてもらったよ」
頭上から声がしたので見上げると、シルクハットは私達の真上あたりに逆さまになって足を組みながら浮いている。
な、なんなのこれ……!
冬矢も私の肩を離さないまま警戒していた。
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