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ノートを一度鞄に仕舞うと、ロッカーから辞書を取り出す。
大きく振りかぶってから思い切り頭に叩き付けてやると、私の怒りの元凶はようやく目を覚ました。
遅いんだよ、ほんとに馬鹿っ!
「ってぇ……もう少し可愛いげのある起こし方はできないのかよ」
眠そうな目に不機嫌さを滲ませながら、ゆっくり体を起こした冬矢は私を見た。
樋野先輩とはまた違った印象の釣り目が、私を恨めし気に睥睨する。
起こしてあげたのに、その言い草は何よ!
「可愛いげのある起こし方で起きるんならそうします! ほら、部活行かなくていいの?」
時計を指さすと、冬矢の目線も無言でそちらに移動。
無表情でそれを眺めていたが、突如スイッチが入ったかのようにどんっと立ち上がる。
「うっわ!? 馬鹿、起こすならもっと早く起こせよノロマありすっ!」
「だからずっと起こしてたってば!」
私の反論が耳に入っているかいないかはわからないが、冬矢は鞄を引っつかむと全速力で走り去った。
何回も何回も起こそうと奮闘した私の苦労なんてなんのその、自分の事しか見えてない。
もう、失礼なんだから。
冬矢ってば、しょうがない奴。
……私も部活に行こう。
なんか気が削げちゃったけれど。
階段を下りて、書道部の活動場所である一階の空き教室へ。
時間的には完全に遅刻なんだけど、うちの部はそのへんゆるいから大丈夫。
部員も二人だけ。
もう一人は、既にそこに居た。
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