神崎ありす、16歳です。

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  「……今日は、先生がいらっしゃいませんので」 「あ、そうなんだ。それじゃあ私達二人なんだね」 そう聞くと、戸賀崎くんはこくりと頷いた。 男の子と二人っきりだっていうのに、ちっとも緊張しないなぁ。 戸賀崎くんがそういう子だから、かな? いつも通り、教室の隅に積まれた机と椅子をワンセット、戸賀崎くんの机と1mほど空けたところに運び、新聞紙を引いて道具を広げていく。 硯に固形墨を擦って、墨汁を作り出す。 入部した当初は、えっ、ボトルに入ってる墨汁を使うんじゃないの? と思ったけれど、慣れてくれば固形墨にも愛着が湧いていった。 地味でも、書道もある意味立派な創作活動なんだなって、書道部に入ってから改めて思い知ったものだ。 半紙を文鎮で押さえて、筆の先端を硯の上で整えたら今日の文字を書いていく。 とは言え、この部活は結構適当だから、書きたい事を各自勝手に適当に書いて良い事になっていた。 だから私は、今日の文字は『青葉』。 五月の木々の眩しい緑を、文字で表現出来たら良いなって思って。 そんなふうに私が半紙に向かっていても、戸賀崎くんは一切喋らない。 無駄な話は一切してこないし、こちらの気が乱れるような行動も起こさない。 戸賀崎くんがすぐ隣にいたってばっちり集中できる。 部活の仲間としては、完璧すぎる人物だ。 それは私も同じで、戸賀崎くんの邪魔になるから余計な声掛けはしない。 仲が良くないんじゃないの? そう言ってくる友達も居た。 でもこれが、私と戸賀崎くんの距離感。  
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