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「……今日は、先生がいらっしゃいませんので」
「あ、そうなんだ。それじゃあ私達二人なんだね」
そう聞くと、戸賀崎くんはこくりと頷いた。
男の子と二人っきりだっていうのに、ちっとも緊張しないなぁ。
戸賀崎くんがそういう子だから、かな?
いつも通り、教室の隅に積まれた机と椅子をワンセット、戸賀崎くんの机と1mほど空けたところに運び、新聞紙を引いて道具を広げていく。
硯に固形墨を擦って、墨汁を作り出す。
入部した当初は、えっ、ボトルに入ってる墨汁を使うんじゃないの? と思ったけれど、慣れてくれば固形墨にも愛着が湧いていった。
地味でも、書道もある意味立派な創作活動なんだなって、書道部に入ってから改めて思い知ったものだ。
半紙を文鎮で押さえて、筆の先端を硯の上で整えたら今日の文字を書いていく。
とは言え、この部活は結構適当だから、書きたい事を各自勝手に適当に書いて良い事になっていた。
だから私は、今日の文字は『青葉』。
五月の木々の眩しい緑を、文字で表現出来たら良いなって思って。
そんなふうに私が半紙に向かっていても、戸賀崎くんは一切喋らない。
無駄な話は一切してこないし、こちらの気が乱れるような行動も起こさない。
戸賀崎くんがすぐ隣にいたってばっちり集中できる。
部活の仲間としては、完璧すぎる人物だ。
それは私も同じで、戸賀崎くんの邪魔になるから余計な声掛けはしない。
仲が良くないんじゃないの? そう言ってくる友達も居た。
でもこれが、私と戸賀崎くんの距離感。
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