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校舎を出ると、空は既に薄暗く、ぼんやりと白い月が見えた。
「もうちょっとで満月?」
「そうだな」
小声でのやりとり。
これが私と、冬矢だけの秘密だ。
それは、この街にひっそりと伝わるとある伝説から始まる。
昔、この街には異界と繋がる裂け目があった。
異界とは文字通り、この世ではない場所。
幽霊、怪物、人外、とにかくそんな魑魅魍魎が跋扈する、こちらの常識が一切通用しない世界。
しかしそれはすぐに塞がれる。
塞いだのは、私のひいおじいちゃん。
さらにその上に教会を立てて結界を構築し、向こうと行き来できないようにしたんだ。
解決したように思えたけれど、『こっちの世界』の征服を企んで、様子見に渡って来ていた一部の種族を取り残したままで――。
冬矢は、取り残された種族の子孫。
私は、それを退治していた聖職者の子孫。
だけど、関係ないんだ。
諦めた異界のひとは、諦めてこっちで家庭を築いたから。
普通の人間と子どもを為した結果、すっかり血は薄くなっている。
といっても、まだ完全に人間になったわけじゃない。
冬矢は、満月の夜、月が高く昇ったころ……人間じゃなくなる。
人狼。
いわゆるオオカミ男だ。
でも満月の夜しか変わらないし、十字架も銀も丸いものも平気。
ただやっぱり人に見せるものじゃないからって、満月の夜は家に閉じこもる。
朝がくれば元通りだから、問題ないらしい。
その姿は、私も見たことが無い。
見せるつもりもないようだし、私も見たいとは思わない。
冬矢の『人狼』としての姿は、いくら私でも『触れてはいけないライン』だと思っているから。
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