神崎ありす、16歳です。

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  校舎を出ると、空は既に薄暗く、ぼんやりと白い月が見えた。 「もうちょっとで満月?」 「そうだな」 小声でのやりとり。 これが私と、冬矢だけの秘密だ。 それは、この街にひっそりと伝わるとある伝説から始まる。 昔、この街には異界と繋がる裂け目があった。 異界とは文字通り、この世ではない場所。 幽霊、怪物、人外、とにかくそんな魑魅魍魎が跋扈する、こちらの常識が一切通用しない世界。 しかしそれはすぐに塞がれる。 塞いだのは、私のひいおじいちゃん。 さらにその上に教会を立てて結界を構築し、向こうと行き来できないようにしたんだ。 解決したように思えたけれど、『こっちの世界』の征服を企んで、様子見に渡って来ていた一部の種族を取り残したままで――。 冬矢は、取り残された種族の子孫。 私は、それを退治していた聖職者の子孫。 だけど、関係ないんだ。 諦めた異界のひとは、諦めてこっちで家庭を築いたから。 普通の人間と子どもを為した結果、すっかり血は薄くなっている。   といっても、まだ完全に人間になったわけじゃない。 冬矢は、満月の夜、月が高く昇ったころ……人間じゃなくなる。 人狼。 いわゆるオオカミ男だ。 でも満月の夜しか変わらないし、十字架も銀も丸いものも平気。 ただやっぱり人に見せるものじゃないからって、満月の夜は家に閉じこもる。 朝がくれば元通りだから、問題ないらしい。 その姿は、私も見たことが無い。 見せるつもりもないようだし、私も見たいとは思わない。 冬矢の『人狼』としての姿は、いくら私でも『触れてはいけないライン』だと思っているから。  
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