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私も私で……跡を継ぐのはお兄ちゃんだから、教会に伝わる技みたいなものは一切教わってなかったりする。
退治する対象だって、冬矢たちオオカミさん一家しか知らないし。
にも関わらず、仲良しのご近所さんだ。
結構アバウトだよね。
「おい、ありす」
ふと、冬矢に呼ばれる。
その声は至極真剣で、どこか鋭さすら秘めていた。
隣に立つ彼の顔を見上げると、冬矢の目はまっすぐ前を向いていた。
今、ちょうど学校の裏に差し掛かったあたり……冬矢の目線の先は、帰る生徒の姿がちらほら見えるだけ。
「ちっ、見えないか。近づくぞ!」
「わっ、ちょっと、冬矢ぁ!」
ぐっと手を引かれて、早歩きの冬矢に引っ張られる。
10mばかり歩いた所で、異常に気が付いた。
「嘘っ、なんで」
「ありゃ俺達にしか見えてねぇみたいだな……」
学校の敷地内の木に登って腰掛けながら、生徒を観察するようにじいっと見ているそれ。
見た目は人間に限りなく近い。
燕尾服に、薔薇のコサージュが付いたシルクハットからはうさぎみたいな耳がぴょこりと伸びている。
透けるような銀色の髪に、血の色みたいに真っ赤な瞳。
そんな異様な出で立ちでありながら、私達以外の誰もが気にせずその下を通っていた。
渡ってこられないはずの、異界人。
その答えを一瞬で導き出す。
じりじりと近付いていくと、向こうも私達に気が付いた。
「……おや、僕が見えるのかな」
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