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続き、と言われて、車の中での話しを思い出した。
確か、警察の偉い方の人助けをしたと、そんな話しだった気がする。
話し自体には、さほど興味をそそられなかったが、これでお別れの時間が延びたかと思うと、素直に嬉しかった。
「そうなんです。実は気になってました。続きをお聞きしてもよろしいですか?」
「もちろんですよ」
言って、柔らかく微笑む柏木さん。
「そうだな……月夜美さんは、僕の仕事がなんなのか、ご存知ですか?」
「詳しくは……でも、林原先生がお読みになる、スピーチの原稿を代筆する方だと、上司に聞いております」
私は、林原先生--現福岡県知事の事務所に勤めるようになって二年半になるが、未だに柏木さんの仕事について、詳しく聞いていなかった。
「そう。簡単に言うと、僕の仕事は代筆です」
代筆--?
ゴーストライターのようなものだろうか。
「今から少し前になりますか……、警察の方から、友人を介して、仕事の依頼がありました。
その依頼というのが、ちょっと変わってまして、後にも先にもあんな仕事はもう来ないと思います」
笑いを堪えているのか、柏木さんは目を細めて、口元に手をあてる。咳ばらいを二回した。
「失礼しました」
「どんな依頼だったのですか?」
「ラブレターの代筆ですよ」
「ラブレター!」
意外な言葉だった。林原先生のスピーチを代筆をするような方が、ラブレターを書くなんて。
「やはりこの顔でラブレターは、おかしいですよね」
「いえ……そんなつもりでは……」
柏木さんが書いたラブレター。
きっと優しさと愛が溢れた、世界一素敵なラブレターに違いない。
貰った女性は、柏木さんが書いたものと知らずに受け取ったハズ。しかし私は、その女性が羨ましいと思った。
「それから、どうなったんですか?」
「めでたくゴールインしました。今は確か、お子さんもいるそうです」
「素敵なお話ですね」
私の頭に、ある考えが閃いた。
うまくいったら--。
「柏木さんにお願いがあります。私のラブレターを、代筆してもらえませんか?」
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