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聴覚を満たすのは自分の心臓の音だけだ。
目をつむっているため他に情報源は無い。自分の後ろにいたその人物を確認したかったが、その目を開けるのが怖かった。
「あの、そんなに驚かれると、すごく罪悪感があるのですが……どうか落ち着いてください」
優しい少女の声だった。
額に汗をかきながらゆっくりと目を開けた。薄緑色の着物を着た少女が立っている。
すこし戸惑った顔が長い黒髪の中にあった。
「あ、はい」
「人間のあなたにいきなり声をかけたことを反省しています」
少女は少し目を伏せる。
「えっと、俺が人間だと強調するのはなぜ?」
聞かなくても予想はついていた。自分でも顔の血の気が引くのがわかった。
「もちろん、私が幽霊だからです」
彼女は微笑みながら宣言した。
しかしその姿を見上げているヒカルは恐怖と驚嘆で呼吸が止まった。
ヒカルはふと我に変えると、一気に立ち上がって階下へ向かう階段へ走った。
「ちょっと、待ってください!」
階段を下りたところで、幽霊の少女が上階の床をすり抜けて降りてきた。そして両手を広げて道をふさいだ。
幽霊の体を通り抜けて逃げられるが、ヒカルにそんな勇気はなかった
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