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「どうして逃げるのです!」
幽霊の少女が叫ぶ。
「ゆ、幽霊から逃げないほうが変だ」
「それじゃあ、私が何か悪いことをしましたか?」
「えっと……」
もっともなことだった。彼女が悪さしたいならば、後ろに忍び寄った時にできたはずだ。しかし彼女は、丁寧にヒカルを驚かせたことをわびた。
それなのに一方的に悪と決め付けるのはおかしいと思った。
ヒカルはゆっくりと少女の顔を見る。長いまつげの生えた大きな目がかわいらしかった。
別に半透明というわけでもなく、人間とそっくりだった。彼女からは必死な感情が伝わってきた。
「もちろん、これから悪さをするつもりもありません」
少女は腰に手を当てて言う。
「悪かったな。幽霊だからといって逃げてしまって」
ヒカルは、恐怖を感じていたことを忘れ、短く笑った。
「しょうがないことです。私も生きている時は幽霊が怖かったですから」
その少女も笑った。
「俺、ヒカルって名前だ。呼ぶときもそのままでいい。君は?」
「ヒカルさん、ですね。初めまして、私はハルと申します」
そう言って丁寧にお辞儀をした。
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