プロローグ

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「ゴメンね。……でも、もう大丈夫だから」 電気の明かりも、窓も無い、蝋燭だけで照らされた薄暗い地下牢。 その片隅で腰を下ろし、自身の半分も生きてはいないであろう子供達を宥める女性がいた。 女性は少々やつれ、ぼろ切れのような服を着てはいるものの、腰まで伸びる黒髪、大きく開かれた鳶色の瞳、整った鼻筋にスラリとした肢体はその持ち主の品位と美しさを損なわせない。 この女性は元々とある平和な国の領主の娘であった。 しかし、隣国から逃げ延びた山賊に領主の留守を狙われて屋敷から領民の女子供達と一緒に連れさらわれてしまう。 連れさらわれた女性の中でも一際の美しさを持った彼女は、山賊の頭領に気に入られ、自身の体を捧げる代わりに連れ去った人達には手を出さず、解放するという約束をし、今に至る。 「頭領がお呼びだ! 早くしやがれ!」 品位という言葉から遠くかけ離れた風体の男が鉄格子越しから怒鳴る。 その場にいた女子供はその身を震わせて恐怖に耐えるしかない。 そんな中でも、領主の娘─トーラ・グロント─は物怖じ無く立ち上がる。 そのまま、彼女は後ろを振り向く事無く、時折下品な視線を向ける男と共に上へとその姿を消した。 .
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