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「私の名前は真由美、桜木……真由美です」
無邪気な笑みを浮かべたまま、少女は自身の名を告げた。彼女の名前を聞いた瞬間、静雄は珍しく柔らかい表情になった。
やっと知れた。それだけが彼、平和島静雄の頭の中を占めていた。まだ会ったばかりで、名を知ったばかりの少女。彼女の事を一つ知れたというだけで、静雄は嬉しかった。
それが何故かは解らない。ただ、惹かれている――としか解らなかった。自分の力に恐怖せず、対等?に接してくれた彼女が、自分と似た存在である事が解って、喜ぶ自分がいるのを静雄は自覚していた。
その喜ぶ理由は、自分と似ている事になのか。それとも何か、また別の理由があるのか、と静雄は考えていた。
しかしそんな時、また臨也が邪魔をしてきた。今度は静雄と彼女の間に、割って入ってきた。
「シズちゃん、さっきから俺の事無視してるでしょ?」
「ハッ、お前の相手する位なら――――その前に殺すっ!!!!」
「シズちゃんってば馬鹿なの?殺そうとしてる時点で、無視してないし、相手してるでしょ?そういう簡単な事すら、君は解らないのかなぁ?―――ま、君は“人間”じゃなくて“化物”だからね。そういう事解ってなくても、仕方ないのかな?」
臨也の挑発に乗った静雄は、先程引っこ抜いたままの標識を、勢い良く臨也に向かって投げた。臨也は標識を軽く避けた後、血がべっとりとついたナイフを再び取り出した。
「臨也、テメェまたっ!!!!」
「早とちりし過ぎだよ、シズちゃん」
ニヤリと口角を吊り上げて、不気味に微笑む臨也。そんな彼に向かって、静雄は少女にぶつけた自販機を投げた。さっきの標識と同じ様に避けた臨也は、ナイフについた血を舐めた。その瞬間、臨也は吐血した。
「ゲホゲホッ、うっ……何、これ……」
「やっぱり、合わないみたいですね……私の血は」
「真由美……?」
「どういう、事……だい?」
臨也が吐血した瞬間、冷静に言葉を紡ぐ彼女を見て、静雄は少し不思議に思いながらも様子を見ていた。
「言ったでしょう?私は“化物”だと。その血が貴方に合わなかっただけの事」
「適合したら、どうなるんだいっ……?」
「そんなの、知らない」
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