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「うそだろっ、傷がもう塞がって……」
少女の傷が塞がったのを見て、静雄は驚きが隠せなかった。彼女にナイフが刺さった時、臨也に怒りが向くより先に、彼女の事が心配になった。それが何故なのか、静雄自身解らない。
しかし静雄が、名も知らぬ彼女に惹かれているのは事実。それが何故か、と静雄は自分自身に尋ねた。そして返ってきた答えは―――
【――似てるんだ】
【昔だけじゃない】
【今現在の俺にも】
【この女は似てるんだ】
それが解った瞬間、静雄は落ち着いていた。自分でも信じられない程、静雄は落ち着いていた。その瞬間、彼の頭にはふとした疑問が浮かんだ。それは実に単純だが、今の彼にとっては重大な疑問だった。
「俺、アンタの名前知らねぇんだけど……」
「え………?」
「いや、だからアンタの名前を」
「……知って、どうするの?」
「名前は呼ぶ為にあるんだ。……その為に知ろうとして、何が悪いって言うんだい?」
「臨也っ、テメェ……」
また蚊帳の外状態になっていた臨也は、二人の会話に割り込んでいった。そんな彼の顔は、いつもと変わらない様に見えつつも、少しばかり怒気……というよりは、嫉妬に近いものが浮かんでいた。
「どうして……?」
「どうしてって、だから呼ぶ為に……」
「だからどうして、私の名前を呼ぼうとするの……?」
「そんなの決まってんだろうが。アンタを良く知る為だ」
「私を、知る?」
「まぁ、そうだね。何か知ろうとするなら、まずは名前から――ってのは基本だしね♪」
「チッ、ノミ蟲にしてはマシじゃねぇか」
臨也の言った事に対して、静雄は嫌々ながらも同意した。しかし肝心の彼女は、未だに不思議に思っていた。“化物”である筈の自分に何故関わるのか。そんな考えが、彼女の頭の中を占めていた。ずっと考えていたら、何故か涙が溢れてきていた。
「な、泣くなよっ!!」
「だってっ……嬉しくてっ」
「嬉しい……?」
「今まで誰も私を呼ばなかった。ううん、呼ぼうとしなかったの……」
「俺が呼ぶ」
「僕が呼んであげる」
二人が言った言葉は、彼女の心に染み込んでいった。そのせいか、今までほぼ無表情だったのが、この時は少し笑っている様に見えた。
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