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(そろそろ時間かな)
ケイジは振るっていた腕を止め、一呼吸ついた。タンクトップの裾をたくしあげると、乱暴に額に浮いた汗を拭う。ふと視界の端に、少し離れたハンバーガーショップから出てきてこちらに向かってくる2つの人影を見つけた。若い男と、その背を追って小走りに駆けてくる女。ケイジは――野生の勘というものだろうか――彼らもまた自分と同じように「じいや」に呼ばれたのだろう、と直感的に思った。
「よぉ、アンタらも『じいや』に呼ばれたのか?」
ケイジは2人に明るく声を掛ける。男は立ち止まると、怪訝そうに眉を寄せて振り返り、背後で固まっている女を見た。そしてケイジに向き直ると、無言で首を傾げる。あれ、連れじゃなかったのか? と疑問に思いながらも、否定はされなかったからやはり「じいや」の招待客なのだろうと確信したケイジは、地下へ続く階段を顎でしゃくって示してみせた。
「とりあえずさ、もうそろそろ時間だし、入ってみようぜ」
(何?! どういうこと?! この眼鏡美男子が「じいや」じゃないわけ?! ってか何なのあの筋肉バカ! 勝手に話進めちゃって! って、あれ?! 眼鏡くん行っちゃうの?! ちょっと待ってよー!)
マリアは混乱していた。時間より早目にアキラと同じハンバーガーショップにやって来て、「じいや」の品定めをするつもりでいた彼女。だが彼女は、チンピラやゴロツキ達ばかりの店内に1人だけいた、育ちの良さそうな眼鏡美男子に、「じいや」そっちのけで夢中になってしまっていた。
指定の時間も迫ってきて、もう「じいや」なんてどうでもいいから、彼逆ナンしに行っちゃおうかな~……などと考えていた矢先に、男は店を出て、指定のバーが入るビルに向かって歩き出した。マリアは
(嘘?! もしかして、彼が「じいや」だったの?! きゃーっ!! 神様、ありがとうっ!!)
などとはしゃぎながら、小走りに彼の後を追った。ところが――
(もうっ、何なのよ! 眼鏡くんが行くからついてきたけど、この筋肉バカまで一緒だし! 「じいや」って奴、一体何考えてんのかしら?!)
(なんでこの子、こんなにジロジロ俺のこと睨むんだろうな~……)
(この女も、「じいや」の招待客なのか……これじゃあますます……)
「『怪盗ロワイヤル』の役者が揃ったみたいだな」
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